臨時行政調査会(第一次) 意見


昭和39年 9月 臨時行政調査会 改善意見
  総論
   14.予算・会計の改革に関する意見
 わが国では、予算の配分については異常な関心と努力がはらわれるが、執行および執行の成果は軽視されている。すなわち、予算の編成は、本来、行政施策を決定する段階であるが、現状では、予算編成に関する基準が明確でなく、また、編成が短期間で行われることもあつて、政策審議が十分でない。また、予算の様式が、予算内容を十分表示したものとなつていないことが、予算の執行および決算を軽視する弊風を生むおもな原因となつていると考えられる。
 会計については、従来、必要に応じて規定を補完する方法をとつてきたために、全体として形式的で、煩雑さが目だち、また画一的なものとなつて、事業の能率的な執行に応じうる体制にない。これらは特に、会計事務区分ごとの責任者といいうる会計機関が数多く設置され、これが組織の区分なく画一的に適応されているために、事実上きわめて少数の管理者に集中し形式化していること、権限と責任の下部委任を認めないため、煩雑で無意味な事務が行われていること、事務の主要なものは、ほとんど大蔵大臣の承認協議を要するため、行政責任の所在の不明確、事務の煩雑および遅延をもたらせていること等に顕著にあらわれている。

( 勧 告 )
(1) 予算の編成の合理化
 予算の編成は、国の施策の内容、程度、実現手段を明確にすることに留意すべきである。このため、財政支出の範囲と国民負担のあり方についての原則を確立する必要があるとともに、予算単価についても客観的な基準をつくるべきである。さらに閣議等において、施策の実質的な審議調製が必要であり、このため、具体的な予算編成方針を早期に決めるとともに、標準予算制度の活用、新規・重要事項の事前協議等によつて編成事務を平準化して、これに応じうる体制を確立する。
(2) 事業別予算制度の導入
 事業計画および目標を具体的に表示しうる事業別予算制度を採用し、執行結果と当初の目標との対比において達成度合および有効性等の評価をおこないうる仕組みとする。
(3) 予算の充実
 予算が効率的に執行されていないと認められるときは、年度途中において執行を停止変更させる権限を含む強力な監査をおこなうとともに、予算の執行結果から判断して予算が効率的に執行されたか否かのみならず、予算そのものの批判に及ぶ必要がある。
 また、決算報告は、予算において示された計画内容と実績との対比という形に改め、かつ、過去数箇年を並列して予算の執行実績とその推移とが明らかとなるものに改める。
(4) 会計事務処理の効率化
 会計は、執行の正確な記録のみならず、事業を能率的に実施しうるものに改める必要がある。このため、会計機関を一つに統合するとともに、責任と権限の下部委任を推進すべきである。
 また、大蔵大臣の承認協議の廃止・簡素化を行ない、省庁の責任体制を整備することによつて、事務の簡素・迅速化に努めるべきである。その他、契約、物品および国有財産の管理、物品の調達、特別会計および政府関係機関の予算会計等についても、同様の趣旨において改善を加える必要がある。
 予算・会計の改革に関する意見
  V 会計事務の効率化
   6 複式簿記の採用
    (1) 問題の所在
 国の会計においては、一般会計は、単式簿記に基づいて収入支出の経理が行なわれるほか、債権・債務・物品・国有財産・特別の資金等がその種類ごとに別個に経理されている。
これに対して特別会計は、予算に基づく収入支出のほかに、現行法令の上で、複式簿記により、発生主義の会計処理が義務づけられているもの、損益計算書、貸借対照表等の財務諸表の作成が義務づけられているもの、あるいはその義務づけの全くないもの等があり、一律ではない。しかも、実際の運用をみると、現に複式簿記を採用している造幣局・印刷局・国有林野事業・アルコール専売事業・郵政事業等の特別会計がある反面、たんに決算の際に財務諸表を作成にするにとどまり、法令の規定がきわめて形式的に運用されているもの、さらには複式経理を一切行なわないもの等がある。
 このような現状に対して、一般会計および特別会計における複式簿記の採用を検討する場合、業務ないし事業の目的に応じて、諸種の方式を考えることができよう。
ア 現行の予算制度は、予算科目に従った収入支出の経理を必要とする。この収入支出に中心をおいて、歳出については、現在別々の帳簿に分散的に記録されている予算額・支出負担行為計画額・支払計画示達額・支出負担行為済額・支出負担行為済支出未済額・支出額を統一的に相互に関連付けて記録する。歳入についてもこれに準じた方法をとり、歳入・債権を統一的には握する。
イ 現在、個別に経理されている現金・債権債務・物品固有財産等のあらゆる財産を貨幣価値計算により、統一的に経理する。
ウ 企業会計に準じた方式をとり、発生主義、減価償却をその要素としさらに原価計算制度の導入を考慮する。
 以上のうち、アのたんに歳入歳出を複式経理するにとどまる場合は複式簿記採用に伴う利点もかなり限定されよう。従ってここで対象とするのは、イのあらゆる財産の統合的な経理ないしはウの企業会計的な経理についてである。
    (2) 複式簿記の効用と問題点
 複式簿記の効用は、いかなる内容のものを、いかなる政府部門に適用するかによって異なってくる。しかし、一般的特徴としては、財産変動の事実と事由が同時には握され、さらに収入支出・国庫金・債権債務・物品国有財産の増減変化が相互に関係づけられて、継続的に表示されるということにある。いわば複式簿記が計算制度それ自体、内部けん制の働きをもつという点に基礎をおくものである。さらに、官庁会計の場合には、管理目的から、複式簿記のもとに原価計算を行って費用をは握し、原価意識の高揚に資するという面を考慮する必要があろう。
 しかし、問題は複式簿記について各種の効用があげられるとしても、その効用は、財産と資本の概念が結びついた企業会計の場合に最も発揮されるものであり、そのことは複式簿記の成立と発展の経緯に照らしても明らかである。
 これに対して、現行会計制度の主要な一面は、予算を、国会が政府に対して歳出権を賦与する形式とみることに対応して、その執行の実際を記録する過程である。これを一般会計についてみると、そこでは上記のように物品ないし資産にあまり関係なく行われる一般的行政、物品ないし資産が事業上重要な事業的行政等があり、その行う事務事業の範囲はきわめて多様である。この多様な事務事業を会計の側面から統一的には握し、その支出を記録し、最終的には総合的な決算とすることが必要である。このような観点にたつ会計は、各省庁で管理目的のために個別に行われる会計とは区別して考えるべきであろう。すなわち、事務事業を管理する目的から費用をは握することが必要な分野については、複式簿記の方法が有用となるのに対し、歳入歳出との間に、企業におけるような対応関係をもたず、しかもその収入支出の記録が重視される場合には、複式簿記による効用も限られてくる反面採用に伴う問題点も多い。
    (3) 勧告
ア 特別会計のうち、事業特別会計については、事業の実態に即した複式簿記を採用すべきである。
 ここにいう事業特別会計は、企業・行政事業・資金・保険等各種の特別会計を含み、事業の種類として、物品の製造、役務の提供、売買、公共施設の建設、保険、金融等がある。現在、複式簿記を採用している特別会計はごく一部に過ぎないが、事業特別会計については、経営成果の当否を判断し、あるいは事業に要した費用を明確化する等のため、複式簿記による経理を行うことが必要である。
イ 一般会計においては、予算に基づいて、その会計処理を行ない、総合的な決算という形にまとめあげることが必要であるが、こうした国としての統一的な観点にたつ場合、現行の会計制度を、複式簿記に改めることについては、なお多くの疑問を残すであろう。しかし、一般会計で行う業務ないし事業の内容は多岐にわたっており、このうちには、たとえば補給業務・刑務所業務・公共事業等のように区分経理して、費用をは握する必要のある分野も少なくない。これらの分野については、内部的に、複式経理を基礎として費用をは握し、内部的な報告制度を整備する当効率的な管理手段を整備すべきである。


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